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広島高等裁判所岡山支部 平成9年(ネ)157号 判決

呼称

控訴人

氏名又は名称

株式会社ジャパンアイディアホーム

住所又は居所

岡山県岡山市駅前町一丁目一番二五号 岡山会館内

代理人弁護士

内藤信義

呼称

被控訴人

氏名又は名称

株式会社パッケージホーム

住所又は居所

兵庫県神戸市中央区磯上通四丁目三番七号

主文

一  原判決の被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

二  控訴人の被控訴人に対する本件確認請求及び建築差止請求に係る各訴えをいずれも却下する。

三  控訴人の被控訴人に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用中控訴人と被控訴人との間に生じた分は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決中被控訴人に関する部分を取り消す。

二  被控訴人が現在使用しているT×A(ティーバイエー)工法(以下「T×A工法」という。)による住宅建築は控訴人が商標登録をしているサペリア建築と同一であること及びT×A工法による住宅建築が商標法に違反していることを確認する。

三  被控訴人はT×A工法よる建築をしてはならない。

四  被控訴人は、控訴人に対し、金五〇〇万円を支払え。

五  訴訟費用中控訴人と被控訴人との間に生じた分は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、控訴人が、商標法一八条、二五条、三六条、三八条、七八条、不正競争防止法二条一項一号(商品主体等混同惹起行為)、二号(著名表示冒用行為)、三号(商品形態模倣行為)、五、六号(営業秘密不正利用行為)、一〇号(商品等の原産地、質量等誤認惹起行為)、三ないし五条を根拠として、被控訴人との間において、被控訴人が使用しているT×A工法による住宅建築は控訴人が商標登録しているサペリア建築と同一で商標法に違反していることの確認を求め、被控訴人に対し、T×A工法による建築の差止めを求めるとともに、損害賠償を求めた事案である。

一  争いがない事実及び証拠等により容易に認定できる事実

1  控訴人は、昭和五七年に設立された住宅等一般建築物の設計及び施工並びに各種住宅機器及び建築材料の販売等を業とする会社、被控訴人は、平成七年七月に設立された鉄骨プレハブ住宅及び木造住宅の販売等を業とする会社である(争いがない。)。

2  平成三年法律第六五号による改正前の商標法(以下「旧商標法」という。)では、商品について使用する商標の登録しか認められていなかったが、右改正後の商標法(以下単に「商標法」という。)では、役務について使用する商標の登録が認められることになった。ところで、控訴人は、昭和六〇年八月二六日、建築又は構築専用材料、セメント、木材、石材、ガラスの商品(旧商標法施行令一条別表第七類)について使用する「サペリア」という商標の登録を出願し、昭和六三年四月一八日、同商標の出願公告(公告番号昭六三―三〇〇六五)がなされた。しかし、控訴人は、同商標について、建設、設置工事及び修理に関する役務(商標法施行令一条別表第三七類)について使用する商標としての登録出願はしていない(甲二、乙ア二、分離前相被控訴人渡邉幸一、弁論の全趣旨)。

3  控訴人は、中小建築業者を会員として、全国をブロツクに分けて拠点を定め、建築方法や建築資材を各会員に提供しており、サペリアもその一つであるが、これを建築材料等の商品の商標としてのみならず、住宅建築の役務の商標(サービスマーク)としても使用(以下役務の商標として使用する場合を「サペリアZM工法」、「サペリアZ工法」、あるいは単に「サペリア工法」ともいう。)している(証人石橋雅則。弁論の全趣旨)。

4  被控訴人は、平成七年七月三日に設立され、業として、建築工事の役務を提供して住宅を建築するとともに、右住宅を販売し、当該役務についてT×A工法という商標を使用しているが、右商標について商標権を有していない。なお、被控訴人が、T×A工法について、サペリア又はサペリア類似の名称を使用したことはない(乙イ四、分離前相被控訴人坂元洋介、同渡邉幸一、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件確認請求について、確認の利益があるか。

なお、控訴人は、控訴人が商標権を有するサペリア建築に対し、被控訴人の違法な侵害行為があることを被控訴人に自認させ、それをやめさせるとともに、控訴人の被った損害を賠償させるためには、幅広く確認の利益が認められてしかるべきである旨主張している。

2  本件建築差止請求について、その内容が特定されているか。

3  本件損害賠償請求について、被控訴人のT×A工法を使用しての営業が、控訴人の商標であるサペリア(あるいはサペリア工法)との関係で、商標法及び不正競争防止法に抵触し、控訴人の営業を侵害したか。

4  損害賠償請求が認められるとして、その損害額は幾らか。

なお、控訴人は、被控訴人の会社が設立された平成七年七月三日から一年間の総損害額四二二八万六八〇〇円の内金として五〇〇万円を請求している。

第三  証拠

原審の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  本件確認請求について

確認請求の訴えについて、確認の利益が認められるためには、その内容が現在の具体的権利又は法律関係の確認を求めるものであることを前提として、右訴えによることが紛争解決の手段として適切な方法であることが必要であると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、控訴人は、被控訴人が使用しているT×A工法による住宅建築と控訴人が商標登録しているサペリア建築とが同一であることの確認(その趣旨は、T×A工法による住宅建築の方法と商標登録しているサペリア名下の住宅建築の方法が同一であることの確認を求めるものと思われる。もっとも、前記第二の一に掲記のとおり、控訴人の出願公告に係るサペリアは建築又は構築専用材料等の商品の商標であって、役務の商標ではない。)及びT×A工法による住宅建築が商標法に違反していることの確認を求めているものであるところ、このような事実の確認やある事実関係が法律に違反していることの確認を求めることは、現在の具体的な権利又は法律関係の確認を求めているものということはできない。控訴人は、本件確認請求について、控訴人が商標権を有するサペリア建築に対し、被控訴人の違法な侵害行為があることを被控訴人に自認させ、それをやめさせるとともに、控訴人の被った損害を賠償させるためには、幅広く確認の利益が認められてしかるべきである旨主張しているが、本件確認請求は、確認の利益が認められるための前提要件を欠く上、控訴人の右目的を達成するためには、被控訴人に対し、差止請求や損害賠償請求の訴えを提起する方が、より直接的、かつ、効果的であって(現に、控訴人は、本件確認請求に併せて、被控訴人に対し、差止請求及び損害賠償請求を求めている。)、これとは別に確認請求の訴えを提起することが、紛争解決の手段として適切な方法であるということもできない。

そうすると、本件確認請求は、確認の利益が認められないから、これに係る訴えは、不適法であって、却下すべきものであり、原判決が右請求を棄却したのは相当でない。

二  本件建築差止請求について

本件建築差止請求は、T×A工法による建築の差止めを求めるものであるところ、「T×A工法による建築」というだけでは、差止めの対象が具体的に明らかでないから、右訴えの内容が特定されていないものといわざるを得ない。

そうすると、本件建築差止請求に係る訴えは、不適法であって、却下すべきものであり、原判決が右請求を棄却したのは相当でない。

三  本件損害賠償請求について

1  控訴人は、被控訴人のT×A工法を使用しての営業が、控訴人の使用する商標であるサペリアとの関係で、商標法に違反する旨主張するので、まずこの点について検討する。

控訴人の商標であるサペリアの出願公告がされていることは前記認定のとおりであるが、右出願公告後に査定を経てその設定の登録がされたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、右サペリアの商標には、商標法上保護されるべき商標権があるものと認めることはできない(なお、商標法には、特許法と異なり、仮保護の権利についての規定はない。)。また、仮に、控訴人がサペリアの商標についての商標権を有するとしても、右商標は、建築又は構築専用材料等の商品の商標であって、建築工事である役務についての商標ではない。

したがって、被控訴人のT×A工法を使用しての営業が、控訴人の使用するサペリアとの関係で、その商標権を侵害し、商標法に違反しているということはできない。

2  控訴人は、本件損害賠償請求の法的根拠として、不正競争防止法二条一項一ないし三、五、六、一〇号、三ないし五条の各条項号を掲げているところ、同法四条によれば、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任がある。

そこで、被控訴人のT×A工法を使用しての営業が不正競争に該当するか否かを検討するために、右T×A工法と控訴人の使用するサペリア工法の内容、類似点、相違点、独創性の有無等について考察する。

(一) 前記第二の一に掲記の事実に、証拠(甲四、六ないし八、一二の一ないし3、一三、一七、二〇、乙ア一、四ないし七、乙イ一ないし四、五の一、2、八ないし一〇、検乙イ一の一ないし4、二の一ないし6、証人石橋雅則、分離前被控訴人坂元洋介、同渡邉幸一)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) サペリア工法の内容等

木造住宅を建築するための工法であり、軸組材、構造用面材、断熱材、防湿フィルムを組み込んだ一、二階一体の外壁通しパネル(一、二階を貫く六メートルの長さの柱を組み込んだ長尺のパネルで、工場で加工される。以下「通しパネル」という。)を使用し、建築現場での省力化及び工期の短縮を図るものである。現場での施工に際し、通しパネルを多用するため、外壁用構造材である柱梁で外枠を組む必要はほとんどなく、各通しパネル間の開口部にもパネルを接続することにより壁面から構築していくものであって、ツーバイフォー(二×四)工法(以下「ツーバイフォー工法」という。)の一種である。

控訴人が木造住宅の建築にサペリア工法を使用するようになったのは、平成三年ころからであるが、それより前に、株式会社エス・バイ・エルが木造住宅(ハウス五五)に同様の通しパネルを使用している。

サペリア工法には、建物の内壁と外壁の間に隙間を設けて内部に結露が生じるのを減少させる構造(外壁通気法)が採用されているが、右構造については、昭和六〇年ころに、大学の建築学者の論文でほぼ同じ方法が紹介されており、また、昭和六一年には、日本乾式防火サイディング協会が外壁通気構法として紹介している。

サペリア工法では、工場であらかじめサッシをパネルに組み込む方法が採用されているが、サペリア工法の以前から周知のツーバイフォー工法では、壁面パネルにサッシを組み込むことはむしろ当然のこととされており、従来から工場現場で組み込む方法もあれば、工場で組み込む方法もあった。

なお、控訴人は、平成四年九月二日、通しパネルに関し、発明の名称を「木造建築物の軸組通しパネル」、目的を「木造建築物において、規格化して種々のプランに共通して対応できるように、通し柱を壁体に組み込んでパネル化する。」、構成を「両端の通し柱を横架材で連結するとともに、両通し柱に外板と内板とを取り付けて一体の軸組通しパネルとし、各軸組通しパネル間に形成される開口部には、開口部パネルを配置することにより、種々のプランに対応する。」として、特許出願をし、公開特許公報に公開(特許出願公開番号特開平六―八一四一〇)されたが、審査未請求の状態のままである。

(2) T×A工法の内容等

木造住宅を建築するための工法であり、床面、壁面のパネル化と間仕切り、天井等のキット(部材)化を行い、工場加工品の多用により、建築現場での省力化及び工期の短縮を図るものである。現場での施工に際し、通しパネルを使用しないため、まず柱梁を組んで建物全体の枠組みを作り、柱梁で囲まれた空間面に一、二階ごとの壁面パネルをはめ込んで構築していくものであって、木造軸組を基本とする在来工法の一種である。

T×A工法には、サペリア工法と同じく壁面パネルが使用されているが、通しパネルは一切使用されていない。現在の住宅建築業界では、その内容に若干の違いがあるものの、壁面パネルが一般的に使用されている。また、T×A工法では、外壁通気法が採用されており、サッシについても、工場であらかじめ壁面パネルに組み込まれる方法が採用されている。

なお、株式会社ハウジングサカモト(代表取締役は分離前被控訴人坂元。以下「ハウウジングサカモト」という。)は、平成三年七月一日、控訴人との間で「Z工法(サペリア工法)システム工場並びにブロック総代理店契約」を締結し(期間一年間)、控訴人のサペリア工法システムによる建築部材の供給を引き受けたが、右契約を更新せず、その後T×A工法を使用して、住宅を建築して販売するとともに、キット(建築部材)の販売を行っている。被控訴人は、平成七年七月三日に会社を設立後、T×A工法を使用して住宅を建築し、これを販売している。

(3) 被控訴人がT×A工法についてサペリア又はサペリア類似の名称を使用したことはない。

(4) ハウウジングサカモトが当初作成したT×A工法のパンフレットには、サペリア工法と類似する内容の記事や写真が掲載されていたところ、被控訴人も、しばらくの間、右パンフレットを事実上流用し、あるいはこれを基にパンフレットを作成したが、これらが控訴人のサペリア工法についてのものであることをうかがわせる記載等は何もなかった。

(二) 以上の事実に基づき、サペリア工法とT×A工法を対比し、その類似点及び相違点について考えると、両者の工法は、工場で加工した壁面パネルを使用すること、そのことにより建築現場での省力化及び工期の短縮化を図っていることの二点において、基本的に類似しており、通しパネルの使用の有無において、基本的に相違しているものといえる。

そして、控訴人は、サペリア工法について、▲1▼通しパネルの使用、▲2▼外壁通気法の採用、▲3▼工場であらかじめサッシを壁面パネルに組み込む方法の採用、▲4▼工期の短縮にその独自性(独創性)がある旨主張しているところ、▲1▼については、壁面パネルの使用自体については何らの独創性はなく、広く住宅建築業界に周知されているし、一方、T×A工法では通しパネルが一切使用されていないのであるから、その独創性及び周知性を論じる余地はない。▲2▼及び▲3▼についても、既に一般に周知されているものというべきであり、これをもって、サペリア工法に独創性が認められる根拠とすることはできない。また、▲4▼は、前掲各証拠によれば、壁面パネル等を使用して住宅建築をする業界全体がこれを目標としていることが認められ、右各工法にのみ特徴的なものでないことは明らかである。

3  そこで、被控訴人のT×A工法を使用しての営業が不正競争に該当するか否かを検討する。

(一) 不正競争防止法二条一項一号(商品主体等混同惹起行為)

同号にいう商品等表示とは、商品表示と営業表示であり、役務商標(サービスマーク)は営業表示に含まれるので、被控訴人がT×A工法という役務商標を使用しての営業が、控訴人のサペリア工法という役務商標を使用しての営業との関係で、営業主体の混同を生じさせるかどうかについて考えるに、右各商標の表示自体には何ら類似性がないから、営業主体の混同を生じさせることはないものというべきである。しかも、被控訴人がT×A工法を使用するに際し、サペリアの名称又はサペリア類似の名称を用いたことがないことは、前記認定の通りである。また、サペリア工法によって作られた建築部材(通しパネルも形態としては壁面パネルの一種である。)が商品の形態による商品表示として保護に値するほどの表示性及び周知性を備えるに至ったものと認めることができるかどうか疑問であるが、仮に保護に値するとしても、被控訴人のT×A工法では、通しパネルは作成されないから、商品表示の面からも、商品主体の混同が生じる余地はないというべきである。

したがって、T×A工法を使用しての営業は同条一項にいう不正競争に該当しない。

(二) 同項二号(著名表示冒用行為)

被控訴人は、T×A工法という商標を使用しており、サペリア又はサペリア類似の商標を使用したことはないのであるから、不正競争に該当しないことは明らかである。

(三) 同項三号(商品形態模倣行為)

控訴人の使用しているサペリア工法自体は役務商標であるから、同号による保護の対象にはなり得ない。また、T×A工法によって作られた建築部材(壁面パネル)とサペリア工法によって作られた建築部材(通しパネル)との間に実質的な同一性は認められないから、前者が後者を模倣したものということはできない。

したがって、T×A工法を使用しての営業は同号にいう不正競争に該当しない。

(四) 同項五、六号(営業秘密不正利用行為)

前記認定のとおり、サペリア工法は、通しパネルの使用を除き、T×A工法との類似性が認められるところ、住宅建築の方式としても周知性のある内容であり、また、格別独創性のある方法が採用されているわけでもないから、サペリア工法の内容が保護されるべき営業秘密に当たらないことは明らかである。

したがって、仮に、被控訴人が、T×A工法について、サペリア工法の内容(通しパネルを除く。)を勝手に利用したとしても、これが同号にいう不正競争に該当する余地はないものというべきである。

(五) 同項一〇号(商品等の原産地、質量等誤認惹起行為)

被控訴人が当初使用していたT×A工法のパンフレットには、サペリア工法と類似する内容の記事や写真が掲載されていたものの、これらが控訴人のサペリア工法についてのものであることをうかがわせる記載等は何もなかったのであるから、右T×A工法のパンフレットの内容表示がサペリアのものであるとの誤認を生じさせることはないものというべきである。

したがって、被控訴人の右パンフレットによる表示行為は同号にいう不正競争に該当しない。

4  そうすると、被控訴人に対する本件損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却すべきものであり、これと同旨に出た原判決は相当である。

四  よって、原判決の被控訴人に関する部分を変更して、本件確認請求及び建築差止請求に係る各訴えをいずれも却下し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成九年一一月一四日)

(裁判長裁判官 伊藤邦晴 裁判官 内藤紘二 裁判官 森一岳)

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